「マジョリティの価値観」(2)

前エントリの続きです。三部作2回目は寓話篇(笑)〜

ここはどこぞの動物村。いえ、みなさんも知ってる、あの昔々の漢土のお話の続きです。「虎の威を借る狐」に業を煮やしたほかの獣たちは、村一番の大きな樹の木陰に隠れて作戦会議。「みんな虎が怖いだけなのに、狐の奴め、虎がいなけりゃなにもできないくせに」「狐に身の程をわきまえさせてやらねば!」「そうだ!せいぜいおまえは野鼠しか相手にできないんだと思い知らせようじゃないか!」。すると、馬が言いました。「虎をその気にさせて、私を追っかけさせてやりましょう。なに、心配ご無用。虎は私に追いつけませんよ」。


馬が虎をそそのかし、馬を捕らえようと思った虎は追いますが、馬は風のように野を駆け抜けます。虎が迫るのを待っては止まり、また駆け抜けて、虎はずいぶんと遠くに行ってしまいました。狐は虎とともに行きたかったのですが、置いてけぼりをくってしまします。このときとばかり、ほかの獣たちは狐を取り囲みました。「さぁ、どうしてくれようぞ!」・・・しかし狐を村一番の樹の木陰に連れてきたところで、犬と猫の間で悶着が起きました。「馬はどうやら、虎と密約をかわしているらしい、あれはデキレースだ」と、そういう噂が伝ったからです。


犬:「虎の威を借る狐」は良くない、しかしみんなが「虎の威」を借りようとするのも当たり前なのだ。となると「虎の威を借る馬」が「狐狩り」をしても何も変わらないじゃないか。だから力を合わせて「狐狩り」ではなく「虎退治」をしようじゃないか!


猫:「虎の威を借る狐」は良くない、しかしみんなが「虎の威」を求めるのも当たり前なのだ。「虎退治」などしてもダメだ。必ずしもダメとまでは言えないかもしれない、しかし虎が何をしたというのだ。なぜ虎を退治するしかないのかを聞かせてほしい。


そこへ鰐が、言いました。「俺なら虎は怖くもなんともないがなぁ。水辺で俺にかなうものなどいない。虎が俺のいる川に水を飲みにきたら、噛み付いて水の中に引きずり込んでやるからな。だから虎も俺がいる川には来ないわけだ」「それよりお前さんたち、こうして大きな樹の木陰でずいぶんといいご身分だな。こんな涼しげな木陰、お前さんたちだけで独り占めかい?」「俺たちは川があるからまだいい。しかしお前さんたちが独り占めしているせいで、泣きを見ている獣もいるだろう、小さな草花なども可哀想じゃないか」


犬:そうだ。「寄らば大樹の陰」も良くない。しかしみんなが「木陰」を求めるのも当たり前なのだ。だから「大樹」を伐り倒すしかない。ほかの「雑草」が「大樹」に育っても同じことだから良くない。常に「大樹」は伐るべきなのだ。


猫:確かに「寄らば大樹の陰」は良くない、しかしみんなが「木陰」を求めるのも当たり前なのだ。「大樹」を伐り倒すようなことをしてはいけない。どうしてもというなら、その前に、なぜ伐り倒すほかないのかを聞かせてほしい。


もちろん鰐は、この樹が伐られることを望んでおりました。